施餓鬼
金持の信心家が、僧侶たちを招いて施餓鬼を行った。盛大な法会だったが、酒はでなかった。
その夜、法会がすんで僧侶たちはそれぞれ部屋に引きとった。酒好きの僧侶がいたが、その僧侶の割りあてられた部屋は、たまたま酒倉の隣りだった。なかなか眠れずにいると、夜中に酒倉の鍵をあける音がした。誰かがはいって行き、中でこっそり酒を飲んでいる気配である。僧侶は癪にさわってならず、起き出して法会の広間へ行き、鉦や太鼓を鳴らして家じゅうの者を起こし、
「亡霊が酒倉に忍び込んで酒を盗んでいる。おそろしいことだ!」
と叫んだ。家の者が起きてきて僧侶をとり静め、
「亡霊なんかじゃありません。あれは人間です。どうかお静まりを」
というと、僧侶は首を振って大声でいい張った。
「いや、亡霊だ。もし人間なら、一甕出してわしたちにも飲ませるはずじゃないか」