駱駝祥子  竹中伸訳

私がこれから御紹介しようと思うのは、祥子であって、駱駝ではない。なぜならば、〈駱駝〉というのは彼の綽名だからである。

で、私は、まず祥子についてお話をし、そのうえで駱駝と祥子とがどうして結びついたあかを申し上げることにしよう。

さて、北京の車夫には、実に種々様々な流派があって、若くて力が強く、脚力の達者なヤツは、素晴らしく立派な俥を借りて来て、一日極めの〈貸切〉を稼ぐ。この種の車夫になると、自分の気の向いたときに出て行き、いやになると、さっさと引き揚げて来る。といった具合で、俥の出し入れは全くの自由である。