小野田さんはこたえた。
「戦友を失ったことです」
質問者は理解できなかったのか、
再度質問をした。
「戦友を失ったことです」
俺が台湾遊学をした年だった。
1974年。
日本中村輝夫さん。
複雑な帰国だった。
日本兵として出征して、戦争に敗れて帰ってきた台湾は、
敵国として戦かった、中華民国になっていた。
知り合ったばかりの台湾人予備校生が、興奮して感動して、
「英雄、英雄」と言ったことが、せめてもの救いだったと、
今なら思う。
40年前の台湾、観光客の多かったウーライの高砂族のおじさんの中に、
元日本兵だったという人たちが何人かいた。
戦後は台湾政府に遠慮して生きて来たと本人から聞いたことも思い出す。